【大学広報の最前線】選ばれる大学になるために|大学広報とブランド戦略の実践
2025.10.08(水)

18歳人口の減少、大学の増加、進む情報化社会。大学を取り巻く環境は大きく変化しており、大学広報が変革を求められる時代です。これまで以上に「選ばれる大学」になるためには、受験生や社会との接点を設計する大学広報が戦略的に機能することが求められます。 本記事では、ブランド視点での大学広報の役割から、成功事例、明日から取り入れられる実践ポイントまでをやさしく丁寧に解説します。本記事では、パンフレットやオープンキャンパスとの連動も含め、これからの大学広報のあり方を考えていきます。
1. ブランド戦略の出発点としての大学広報
大学広報は、単なる情報発信ではなく、大学ブランドの入り口としての機能を果たす重要な領域です。
1-1. 大学広報が担う基本的な役割と目的
大学の理念や強み、教育・研究内容を整理し、社会に伝える。それが大学広報の本質です。受験生にとっては「最初の印象」を決定づけ、企業や地域社会にとっては「信頼できるパートナー」であることを示す役割を担います。
1-2. 入試広報との違いと連携の必要性
入試広報が「集客」を目的とするのに対し、大学広報は「共感と信頼」を育む活動です。ターゲットの違いはあるものの、広報と入試の連携が深まることで、志願者数にも好影響を与えるような好循環が生まれます。
1-3. 広報の戦略的役割が強まった背景
スマートフォンとSNSの普及により、受験生や保護者の情報接触のスタイルは劇的に変化しました。同時に、大学に求められる社会的責任や地域貢献も多様化し、広報は“橋渡し役”としての存在感を強めています。
2. ブランド力を育てるために必要な視点とスキル
ブランド構築には戦略性と継続性が不可欠です。大学広報担当者に求められる視点やスキルを紹介します。
2-1. データを活用した戦略立案
SNSやWebサイトの分析を通じて、どのコンテンツが反応を得ているかを可視化。データをもとにした改善によって、成果に直結する広報戦略を実現できます。
2-2. 多チャネル発信で一貫性のあるイメージづくり
紙媒体からSNS、動画、イベントまで、多様なチャネルを統一感あるトーンで展開することで、“大学らしさ”が記憶に残ります。
2-3. 学内外の巻き込みとマネジメント
広報は一人ではできません。教職員や学生、制作会社などを巻き込んだ推進力が求められます。「この人に聞けば大丈夫」と信頼される存在になることが、成果への第一歩です。
3. 広報の現場で感じる悩みとブランド視点の必要性
現場で奮闘する広報担当者が直面している、よくある悩みや課題を整理し、ブランド戦略の視点がどう解決に寄与できるかを考察します。
3-1. 限られた予算と人手の中で求められる成果
人員・予算が限られる中、成果を求められる厳しい現実。効率的な戦略設計と、投資対効果を意識した活動が求められます。
3-2. 情報発信に対する学内理解の壁
広報活動の重要性が理解されず、「パンフレットだけ作ればいい」といった誤解も根強いのが現状です。定量的成果の可視化がカギとなります。
3-3. 広報の効果が見えにくいという課題
SNSやWeb更新が「何に効いているのか分からない」と感じるケースも少なくありません。KPIの設定と検証体制の構築が必要です。
3-4. ブランド視点が課題解決の鍵になる理由
「大学らしさ」を軸にすることで、全体の方向性が整い、関係者の協力も得やすくなります。ブランド戦略は、分断された広報課題を整理する地図になります。
4. 大学らしさを伝える成功事例から学ぶ
舞台芸術系学部の新設時に、ニュース性とストーリー性を両輪にした段階的アプローチで行われた名古屋芸術大学のブランド戦略についてご紹介します。
4-1. 新設領域を“ニュース”として打ち出す

大学が新しい学びの領域を立ち上げる際には、まず「存在を知ってもらうこと」が重要です。
新領域の詳細をあえて語らず、「新しい学びの領域が誕生する」という事実そのものをニュースとして伝えることを重視しました。紙面では創造性が感じられる有機的なモチーフを使ったシンプルな20段広告を展開し、インパクトと速報性を重視。読者の記憶に“名前を残す”ことを第一段階の目的とした点が特徴的です。
4-2. 対談・インタビュー形式で“学びの魅力”を語る


次の段階では、学びの内容や魅力を立体的に伝えるため、3号連続の対談・インタビュー広告を展開しました。
現場で活躍するプロフェッショナルが教員として指導にあたる教育環境を取り上げ、「舞台芸術を志す上でどのような力が必要か」というテーマを、対談形式で語ってもらう構成です。
キャッチコピーには「あなたが舞台を作る」を据え、受け身ではなく“自ら創り出す学び”を印象づけました。シリーズとして展開することで、読者への認知浸透とブランドメッセージの統一を図っています。
4-3. 次年度への種まき

年度末の3月には、次年度を見据えた広告を再度出稿しました。内容はややライトなトーンとし、舞台芸術に興味を持つきっかけをつくることを狙っています。
イメージ広告、対談・インタビュー広告、興味喚起広告の3パターンを制作したことで、時期やターゲットに合わせた柔軟な展開が可能になりました。
このように、「ニュース→理解→共感」という三段階の設計により、単発の告知に留まらない“ブランドストーリーとしての広報”が実現されています。大学広報における効果的なブランド構築の好例といえるでしょう。
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5. 今すぐ実践できる大学ブランディングのヒント
戦略的にブランドを強化するために、すぐに取り入れられる実践ポイントを紹介します。
5-1. ペルソナに合わせたメッセージ設計
ターゲットによって響く言葉や表現は異なります。高校生、保護者、社会人など、それぞれの関心に応じた設計が重要です。
5-2. ストーリーで語る大学の魅力
制度説明や数字だけでは伝わりきらない大学の良さ。教員や学生の声をストーリーとして組み立てることで、共感と納得を生みます。
5-3. オウンドメディアの定期運用
大学サイト内に特集記事やブログを定期的に設け、SEOやSNS流入を狙う中長期施策。運用体制の構築が鍵です。
6. パンフレットとOCを“ブランド体験”として設計する
パンフレットやオープンキャンパスは、大学の世界観を“体験”として伝える最前線のツールです。
6-1. パンフレットは“大学ブランドの入り口”
表紙のデザインから見出しの言葉まで、受け手の印象に直結。大学らしさをビジュアルとコピーでどう表現するかが肝になります。
6-2. オープンキャンパスは“共感を生む体験設計”の場
体験授業やキャンパスツアーだけでなく、ストーリー性を持たせた構成が参加者の心に残ります。事前・事後のSNS発信と組み合わせることで、認知と記憶の両面に効果を発揮します。
6-3. SNS・Webと連携させたシナリオ型広報の考え方
事前にパンフレット・SNSで関心を高め、OC当日に体験を深め、終了後にWebや動画で振り返らせる。これが一貫性ある“体験のデザイン”です。
6-4. 一貫性あるブランド体験のつくり方
ビジュアル、ストーリー、トーンをそろえた大学は、高い志願率と好意形成を実現しています。OCとパンフレットを別物と考えず、“シナリオ”で設計する視点が重要です。
7. 広報力を支える仕組みと組織体制
継続的な発信と改善を支えるのは、体制と仕組みです。
7-1. 入試部門との連携と情報共有
入試情報と広報戦略が連動することで、認知から志願までの導線が強化されます。週次での打合せや共同企画の実施が効果的です。
7-2. 担当者の専門性と継続的な学び
SNS運用やデザイン、動画、SEOなど、広報分野は変化が早いため、学びのアップデートが欠かせません。外部研修や勉強会参加を制度化する大学も増えています。
7-3. 成果の可視化と学内への浸透
KPIの設定、分析レポートの定期提出、成功事例の共有によって、学内理解と協力が得やすくなります。
8. これからの大学広報に求められる姿
今後、大学広報にはさらに大きな役割が求められます。
8-1. ブランド価値を中長期で育てる
受験者数やPV数といった短期指標だけでなく、「大学像」が長く記憶に残るよう、数年単位で戦略を設計する必要があります。
8-2. 社会とのつながりを広げる広報へ
地域や企業、市民と接点を持ち、「大学って身近で役に立つ」と思ってもらえる存在に。共創型プロジェクトや公開講座などの発信が鍵となります。
8-3. 教育機関としての価値を言葉にする
「人材育成の場として、社会にどう貢献するのか」を言葉にしていく。理念や教育方針を、一般の人にも伝わる表現にする力が求められます。
9. おわりに|「共感」が広報の中心になる時代へ
大学広報は、単なる情報伝達ではなく、「共感の設計」です。
デジタル技術が発達しても、人が人の魅力を語る本質は変わりません。リアルな声とストーリーをていねいに、戦略的に発信していくこと。それこそが、大学ブランドを育て、未来の学生や社会との“つながり”を築いていく鍵となるでしょう。
10. 大学広報・ブランド戦略に関するFAQ
Q1.ブランド戦略って、結局“かっこいいデザイン”にすること?
ブランド戦略は「見た目」を整えることではなく、「らしさ」を言語化・可視化し、相手に伝わるように設計することです。デザインもその一部ですが、本質は“どう思われたいか”と“その印象をどう届けるか”という戦略全体にあります。
Q2.他の大学と差別化するポイントが見つかりません……
無理に目新しさを探す必要はありません。学生や教職員の言葉の中にこそ、“その大学らしさ”が眠っています。実際の声を集め、共通点を見つけるところから始めると、自然と差別化のヒントが見えてきます。
Q3.広報の仕事が多く、手が回りません。優先順位はどう決めればいいですか?
まずは「誰に」「何を」届けたいのかを明確にし、目的に直結する活動から着手しましょう。すべてを完璧にする必要はありません。少しずつでも、戦略的な優先順位を立てることで、効率的に動けるようになります。
Q4.SNSや動画など、デジタル対応が不安です。経験がなくても始められる?
はい、大丈夫です。まずは「学生にとって見やすい形って何だろう?」と考えることからスタートしましょう。小さな投稿やインタビュー動画でも反応を見ながら改善できます。専門家に一部頼るのも有効です。
Q5.パンフレットやオープンキャンパスとブランド戦略ってどうつながるの?
これらは「大学の印象を決定づける接点」です。だからこそ、ブランド戦略と一貫性を持たせることが大切です。パンフレットやイベントの構成を、伝えたい“大学らしさ”と整合させることで、より深い共感を得られます。
【引用・参考データ一覧】
1.文部科学省『学校基本調査(令和5年度)』
出典:文部科学省
URL:https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1419656_00004.html
※18歳人口の推移などに関する統計資料
2.LINEリサーチ「高校生のSNS利用に関する調査(2023年)」
出典:LINE株式会社 LINEリサーチ
URL:https://research-platform.line.me/archives/43932461.html
※高校生のSNS利用率や、情報収集手段の変化について
